地方発海外の活性化は「互恵」重要、訪日受入の基盤にも

9月末に開催されたツーリズムEXPOジャパン2014の国際観光フォーラムでは、海外旅行シンポジウムとして出国者数2000万人の実現に向けた地方需要の活性化策が議論された。社会的に訪日旅行の振興に注目が集まる中で伸び悩む海外旅行需要だが、ツーウェイツーリズムは国際旅行市場において安定性、持続性が大前提だ。特に課題となる大都市圏以外での出国率をどのように引き上げていくか、シンポジウムで出された意見を紹介する。



基調講演

北海道副知事 荒川裕生氏

パネリスト

青森県観光国際戦略局次長 高坂幹氏

春秋グループ日本代表 王煒氏

エア・ドゥ(HD)執行役員営業本部長 本田実氏

ツアー・ウェーブ代表取締役社長 江口篤氏

モデレーター

JATA海外旅行推進委員会チャーターWGリーダー、KNT-CTホールディング海外旅行部部長 河野淳氏


▽訪日振興の礎に海外旅行を、修旅など支援も



北海道副知事の荒川裕生氏

 シンポジウム冒頭の基調講演で北海道の荒川氏は、訪日旅行と海外旅行の現状と課題を説明。荒川氏によると、2013年の北海道への外国人旅行者は101万5000人であったが北海道民の出国者数は31万6000人。パスポート取得率も2013年末時点で14.7%と全国平均の23.5%を下回り、都道府県別では36位となっている。


 また、出国率も同様の傾向で、全国平均は13.3%だが北海道は5.5%で順位は37位。荒川氏は、都道府県別31位の県民所得との相関関係を示唆しつつ、「北海道よりも県民所得が低いが出国率は高い県もある」とし、「伸び代はあると考えなくてはならない」と指摘した。


 こうした状況下で、「海外旅行に行き慣れていないといえる北海道民、海外を知らない北海道民に対して色々なアプローチ」をすることが重要となるが、現在は特に若年層をコアターゲットの1つに設定。若い住民が世界を理解することが、訪日の受入体制の充実にも繋がっていくとの考えのもと、種々の取り組みを進めている。


 活動の主体は、各国政府観光局や航空会社、道内の旅行会社、地元の公的機関などが参画する「北海道海外旅行促進事業実行委員会」。各社・団体が知恵と資金を集約し、海外旅行のフェアやセミナーの開催、ラジオ番組の放送などをおこなっている。



春秋グループ日本代表の王煒氏

 特に若者向けには、海外への教育旅行を支援。パスポート取得費や旅行代金など渡航費の一部を助成するもので、今年度はさらに既存ないし将来見込まれる直行便の就航地への教員のFAMツアーを初めて実施。台湾とハワイ、マレーシアへ派遣したという。


 なお、海外旅行の活性化による訪日旅行の受入環境整備については、春秋グループ日本代表の王氏も強く主張。王氏は、海外旅行は「人づくり」であり、そうした人々の声を活かすことこそが「継続的なインバウンドの取り組みのポイント」であるとし、春秋グループとしても「行政や地域、業界団体と一緒にやっていきたい」と語った。


▽「組み合わせ」の重要性、アウトバウンドも広域で



青森県観光国際戦略局次長の高坂幹氏

 パネルディスカッションでも、青森県の高坂氏が活動を紹介。青森県では、「役所は部局が違うとうまく連携できない」課題を解決するため、外貨獲得に関係する事業を一元化。「観光国際戦略局」として訪日旅行、海外旅行に取り組むほか、貿易なども担当している。


 活動例としては、例えば国内旅行では、フジドリームエアラインズ(JH)の名古屋/青森線が就航当初は苦戦したものの、JHウェブサイト上で中京圏の観光情報を充実するとともに、青森県側でもテレビを通して需要を喚起し、逆に中京圏では青森の魅力を発信して利用率が向上。


 同様に国際線でも、戦略的に双方向の工夫を組み合わせることが重要で、さらに国内側の取り組みは広域で進める必要があると説く。高坂氏は、「アウトバウンド需要を単県で創出していくのは非常に厳しい」とコメント。隣同士の県で同じ国、ましてや同じ航空会社の路線を維持するよりも、分散することでエリア内の海外旅行需要を集約でき、訪日旅行でも広域観光を提案しやすいメリットがあると強調した。


 このほか、高坂氏からはターゲット国の明確化も重要になってくるとの意見も出た。青森県ではもともと韓国や中国、ロシアなどとの関係が強いが、その時々の政治関係などに翻弄されるため、海外旅行、訪日旅行問わず、親日度などにより選択的に注力していくことが必要との考えだ。



KNT-CTホールディング海外旅行部部長の河野淳氏

 ただし、韓国などでも、外部環境に左右されない需要を確保する努力も続けているところ。具体的には自治体やメディア、商工団体と連携して相互交流を活発化しているほか、登山やトレッキング、キャンプなどSIT分野での交流も促進。MICEや教育旅行の取り組み、潜在需要の掘り起こしもおこなっているという。


 旅行会社との連携しており、例えばツアー・ウェーブはソウルでの婚活ツアーを企画したほか、女子会ツアーとして、ホテルではなくスパに宿泊するようにして旅行代金を抑えて需要を喚起した例もあるという。


 なお、北海道や青森県の取り組みの特徴はアウトとインの一体的な取り組みだが、KNT-CTホールディングスの河野氏はこうした「互恵性」が成長の鍵になると分析。「青森空港を使う山形県民の方々にどのようなメリットを出すか。地域内の旅行をされない方、旅行で利益を得られない方に対するメリットをどうするか」といった点について、「互いに相手を思いやる」ことが重要ではないかと意見を述べている。



▽座席確保の課題、「チャーター保険」など提案も



ツアー・ウェーブ代表取締役社長の江口篤氏

 地方からの海外旅行を考える際に極めて重要なのが航空座席の確保。国際線は、北海道や青森県など訪日旅行者を呼び込みたい地方にとっても「決定的な要素」(荒川氏)だが、その維持のためには双方向のトラフィックを極力バランス良く組み合わせることが求められる。


 地方市場で力を発揮する旅行会社、ツアー・ウェーブの江口氏は地方空港の難点として、「愚痴になるが」と前置きしつつ「定期路線が少ないか、全くない」ことを指摘。また、ピークシーズンに成田や関空の路線が大都市圏の需要のみで埋まってしまい座席を確保しにくいケース、座席があっても成田まで陸路での移動を求められるケースも課題となっていると紹介した。


 このほか、地方対大都市圏の構図でみると、関空や中部の開港、成田の発着枠拡大、羽田の再国際化といった変化に引きずられ、大都市圏ですら路線が不安定であることも苦労する点。「商品を作ってプロモーションをかけ、ようやく定着させるとまた便がなくなる」という流れがあるという。


 一方、行政が積極的に路線を誘致する動きについて江口氏は、「来る者には餌をやり、来た者には何もやらないという風潮がないわけではない」と言及し、「呼んできたものは最後まで責任をもってほしい」と注文。また、就航地についても、1つの国や都市が売れるからと相次いで同じ路線が開設されるのは共倒れに繋がるとし、青森県の高坂氏の発言同様、分散が望ましいとの考えを示した。


 また、座席の確保のためにツアー・ウェーブではチャーターも活用しており、江口氏は「ないところに需要を作るのが醍醐味」であると表現。ピーク対策だけでなく、継続して実施することで定期便化に繋がる効果もねらっているところで、「旅行業界だから旅行を売っていれば良い、ではなく、地域の活性化や日本の航空産業の発展なども考えながらやっていければ」との考えだ。



HD執行役員営業本部長の本田実氏

 パネルディスカッションに本田氏が参加したHDも、2017年度以降の国際線定期便開設に向けて、順次チャーターの展開をめざしているところ。まずは新千歳/台北間の計画だが、チャーターが可能な時期を事前に提示するなど旅行会社が売りやすいように工夫もし、東南アジアなども含めて前向きに検討していくという。


 出国者数2000万人の達成とそのための地方市場拡大のためには、ツアー・ウェーブやHDを含めて、現状よりも大幅なチャーター便の設定が求められる。この点について江口氏は、旅行会社同士の協力や環境整備が必要とコメント。例えば旅行会社の協力では、大手同士だけでなく、地場で事業を展開する第2種、第3種の旅行会社を巻き込むことで、彼らが持つ地元の有力な顧客に利用してもらえる可能性に言及した。


 また、環境面では、個札販売ルールの簡素化や、「ツーウェイかつ10往復」など一定の基準を超えたチャーターへの助成制度、さらに「チャーター保険」やオフライン航空会社との取引時のリスク回避プログラムなどのアイディアも披露した。



 

出展:トラベルビジョン

http://www.travelvision.jp/news/detail.php?id=64559