訪日旅行で連携強化、市場多様化はかり地方誘客を-JATA経営フォーラム

2013年の訪日外国人旅行者数は1036万3900人となり、初めて1000万人を突破した。政府は2013年6月に閣議決定した「日本再興戦略-Japan is BACK-」で、2000万人の高みをめざし、2030年には3000万人の大台を目標に掲げている。旅行業界も2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、訪日旅行ビジネスの拡大に取り組んでいるが、ゴールデンルート以外への誘客、受入環境整備など課題は多い。2月におこなわれたJATA経営フォーラム分科会C「JATA会員会社の訪日旅行取扱いを増やすためにはどうすべきか!」では、今後の展望や旅行会社が抱える課題について議論がなされた。

 

訪日旅行市場、主要事業者は苦戦、自社の強みを活かした企画を

 

分科会ではまず、JTBの吉村氏が旅行業界の訪日旅行ビジネスの現状を説明した。同氏によると2013年の市場規模は1兆4168億円。しかし、JATAの主要29社の取扱高は663億5000万円で全体の6%にすぎない。「主要事業者の取扱高は、訪日旅行者の増加に比例せず、右肩上がりで伸びているわけではない」と話し、苦戦している現状を紹介した。

 

 吉村氏は訪日旅行ビジネスに参入する課題として、ニーズが把握しにくいこと、専門性を持った人材が不足していること、外国人が運営する旅行会社や外資系のデスティネーション・マネージメント・カンパニー(DMC)など特にアジアでの競合相手が多様なこと、OTAの存在、ビジネスパートナーによる直販を挙げた。

 

 その上で、今後の取り組みとして「自社の強みを活かしたターゲティングをおこない、地域の魅力を商品化するためにディープでディテールな独自企画が必要ではないか。また、すべて自社でやる必要はなく、パートナーとの連携も大切になってくる」と提案。人材育成、情報発信、受入体制の整備など「2000万人向けたグランドデザインを描く」ことが要になると話し、今後のJATAの役割に期待を示した。

 

地方誘客で工夫を、面で売る発想も必要

 

 分科会では、2000万人の高みをめざすうえで欠かせない視点として、地方への誘客が課題としてあがった。モデレーターで松本大学教授の佐藤氏は、2000万人の訪日外国人旅行者たちは「一体日本のどこを旅するのか」と話し、ゴールデンルートに偏っている現在のマーケット動向に対して、問題を提起した。

 

 観光庁の飯嶋氏によると、2012年の統計で、外国人の延べ宿泊者数は東京、大阪、北海道、千葉、京都で全体の68%。「残りの32%をどのように膨らませていくかがポイントになる」との見解を示した。政府では、こうした課題について交通政策審議会観光分科会で議論を深めながら、今夏には「観光立国実現に向けたアクションプログラム」を改定する計画だという。

 

また、佐藤氏は「地方の保守的な発想を変える必要がある」と指摘。これを受けてJTBGMTの吉村氏は、地域によって温度差があるのが現実とし、「成功事例をいろいろな地域で共有することが大切ではないか」と提案した。また、FITの動きがカギになるとの考えを示すとともに、着地型観光や学生交流など将来のリピーターにつながる取り組みの必要性を説いた。

 

 日本旅行の喜田氏は、地域ごとではなく「(広域を)面で売っていく発想が必要ではないか」と話すとともに、旅館でのテーブル席の用意などを例に挙げ、「外国人対応とバリアフリー対応は似ているところがある。その視点も大切では」と提案した。

 

 トラベル・イノベーション・ジャパンの木地本氏は自社の取り組みを紹介。同社はタイからの訪日旅行客に特化したビジネスを展開する2012年創業の第2種旅行業。タイ人のスタッフを抱え、現地に直接セールスに赴くとともに、毎日タイ語によるFacebookを更新するなど、情報発信にも力を入れている。また、タイの旅行会社に地方デスティネーションを見せる取り組みもおこなっているという。

 

 しかし、一社でできることは限界があることから「JATAや日本政府観光局(JNTO)と一緒にプロモーションをして、デスティネーション開発を進めていくべき」との考えを示した。

 

旅行会社各社で分業と協業を、JATA品質認証制度の活用も

 

また、日本旅行の喜田氏は需要がゴールデンルートに集中していることで「見積もりは増えているが、手配できていない」現状に対する危機感を述べた。しかし「ピンチはチャンス」でもあるとし、今後求められる取り組みとして分業の必要性を挙げた一例として、小規模な旅行会社が造成したSIT商品を大手旅行会社の販路を活用して販売するとのアイデアを披露。小規模旅行会社同士の協働の可能性も示唆した。

 

さらに、喜田氏は価格勝負から品質勝負に転換していく必要性を説き「どこまで品質が見えるかがポイント」として、JATAが運営する訪日分野の「ツアーオペレーター品質認証制度」の有効性を強調した。同制度は訪日旅行事業に携わるツアーオペレーターの品質を高め、旅行商品の質の向上を目的としたもので、4月3日現在の合計認証会社数は38社。トラベル・イノベーション・ジャパンも取得しており、木地本氏は「タイでセールスをする場合に他社との差別化になる」と、そのメリットを指摘。モデレーターの佐藤氏も「品質が担保できなければ、リピーターは育たない。インバウンドでも事業登録が必要ではないか」と提言した。

 

 

新しい次元の連携をJATAに期待

 

こうした議論を踏まえ、分科会の終わりには「JATAとして何ができるか」をテーマに意見交換がなされた。観光庁の飯嶋氏は、国の方針として掲げている数の拡大、質の向上、地方への誘客の3点についてJATAと協力していく姿勢を示すとともに、地方運輸局観光部やJNTOとのさらなる連携を提案。「多様化に対応するのではなく、多様化する動きをつくってもらいたい」と話し、2000万人向けた協力を呼びかけた。

 

 また、JTBGMTの吉村氏は、JATA地方支部との連携で地方の魅力を発信し、JATAとしてムーブメントを作っていく取り組みに期待を示した。日本旅行の喜田氏は訪日旅行市場の多様化を促進するために、新しい次元のコラボレーションの必要性を強調。それぞれの強みを共有化してビジネスのネットワークを広げていく方向性に言及した。

 

 

 トラベル・イノベーション・ジャパンの木地本氏は、「ゴールデンルート3泊は正直なところ厳しい日程。しかし、現地はそれを求めている。なぜなら、その方法しか知らないからだ」と発言。「JATAと協力して、情報の発信とともに、現地旅行会社の研修、デスティネーション開発もできれば」と希望を付け加えた。

 

出典:トラベルビジョン

http://www.travelvision.jp/event/detail.php?id=61110