出揃った訪日客向け無料WiFi、課題は犯罪対策利便性とセキュリティの天秤

ソフトバンクモバイルが2015年7月1日から訪日外国人向けに公衆無線LANスポットを開放する。「FREE Wi-Fi PASSPORT」というサービス名で、同社の全国40万のアクセスポイントを無料で利用できる。すでにNTT系やKDDI系の企業が同様のサービスを提供しており、今回で通信大手3社の足並みがそろうことになる。


日本政府観光局の調査によると2014 年の訪日外国人は前年比 29.4%増の 1341万4000人と過去最高。2015年に入っても1カ月あたりの訪日外国人数の過去最高記録を毎月更新しており、増加の一途をたどっている。公衆無線LANのニーズはますます高まっていくだろう。


 その一方で問題になっているのが、セキュリティの甘さを突かれて犯罪に利用されるリスクがあることだ。


サービス変更に追い込まれた京都市


 京都市が観光客向けに無料で提供している公衆無線LANサービス「KYOTO Wi-Fi」は、5月28日から接続時間に制限をかけることにした。これまでは24時間連続で利用できたが、30分ごとに再度接続するように変更した。KYOTO Wi-Fiは利用者の本人確認なしで利用できるため、犯罪に利用される恐れがあると外部からの指摘を受けたからだ。ここでいう犯罪とは、たとえば企業のホームページを乗っ取って改ざんする、掲示板サービスに脅迫を書き込む、企業や官公庁のサーバーにアクセスして情報を漏えいさせるといったものを指す。


 本人確認を厳格にするなどセキュリティを高めると、手続きが煩雑になり利便性を損なう恐れがある。京都市が接続時間に制限を設けたのは、観光客の利便性を損なわないようにしつつ、連続でつながらないようにして、犯罪に利用しづらくする抑止力を狙った苦肉の策だ。これだけでは犯罪を完全に防ぐことはできない。訪日外国人向けの無料公衆無線LANサービスには、メールアドレスを登録させるものや、スマートフォンの固有番号を登録するものがあるが、犯罪者の個人を特定できるものにはなりづらい。


一方、ソフトバンクモバイルの「FREE Wi-Fi PASSPORT」はブラウザ認証の仕組みを取る。まず指定された電話番号にかけ、音声でパスワードになる4ケタの数字を聞く。同社の公衆無線LANに接続できたらブラウザが立ち上がり、IDとして自分の電話番号と発行された4桁のパスワードの入力が促される。アプリを入れる必要もないし、IDやパスワードも複雑ではない。


 ソフトバンクモバイルは電話を掛ける際の発信番号通知により、使用している電話番号を収集する。通信会社は電話番号からどの国の誰が契約しているかが追跡できるため、犯罪の抑止効果が期待できる。再度接続する場合も、IDとパスワードを再度入力する必要はなく、ブラウザに表示される接続ボタンを押すだけでいい。電話番号の入力や接続の手順に工夫を凝らし、セキュリティを高めつつどれだけ利便性を高めるかに知恵を絞っているわけだ。



政府推進も道は険しい


 こうした公衆無線LANサービスの整備は政府も取り組みを始めている。観光庁と総務省が2014年8月から共同で開催している「無料公衆無線LAN整備促進協議会」だ。訪日外国人の増加や2020年の東京オリンピック開催を受けて無料の公衆無線LANを増やし、利便性を高めることが目的だ。協議会のテーマの一つに挙がっているのが、一度の認証で、異なる企業が提供するサービスも使える「ローミング」を導入できないかというものだ。


 観光庁らは積極的に進めたい考えはあるものの、関係者によると「観光庁や自治体、サービス事業者などの足並みはそろっていない」という。一つはやはりセキュリティの問題。しっかり本人確認している事業者からすれば、不完全な事業者経由で来た利用者に乗り入れされたくない、というわけだ。また、各サービスを連携させる仕組みを作り運営していく費用をだれが負担するのかが不透明なことも不安材料になっている。


 訪日外国人に公衆無線LANを使ってもらえれば利便性が高まり、モノやサービスの購入につながる。さらに日本の魅力を知る機会となりリピーターになる可能性もあるだろう。今回のソフトバンクモバイルの仕組みを横展開するなど、今後も政府だけでなく自治体、事業者が知恵を出す必要性が高まっている。


出展:日経ビジネス

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150604/283909/?rt=nocnt


コメント: 0