スポーツで人を動かそう 地方にこそ「工夫の余地」 

インバウンド(訪日外国人)の急増とともに、スポーツを観光資源として地域に人を呼び込む「スポーツツーリズム」が注目されている。スポーツイベント誘致などを進める官民協力の専門組織(スポーツコミッション)を設置する自治体も目立ってきた。スポーツは地方創生のためにどんな役割を果たせるのか。日本スポーツツーリズム推進機構会長を務める早大スポーツ科学学術院の原田宗彦教授の意見を聞いた。(聞き手は編集委員 北川和徳)


――スポーツツーリズムは、インバウンド増と地域活性化を目指して国も推進を後押ししている。


10年前にはスポーツツーリズムをグーグルで検索しても211件のヒットしかなかったが、今ではすっかり定着した。スポーツツーリズム推進機構には現在、約40の自治体も会員として参加している。スポーツツーリズムとは簡単にいえば、スポーツを使って人を動かす仕組みを作ることだ。もともと地域にあるスポーツ施設やイベントを活用したり、新たなイベントを誘致、創設したり、さらにチームの合宿誘致など、何でも構わない。そこが知恵の絞りどころでもある。


 そうしたスポーツ資源の開発や活用法を四六時中考えるのがスポーツコミッション。通常は自治体が中心になって観光団体、観光業者、スポーツチームなどと協力して組織する。さいたま市や沖縄県など17の自治体にすでにあるが、金沢市、札幌市などほかにも設置の動きが広がっている。また、コミッションと名乗らなくてもスポーツツーリズムを推進する組織もたくさんある。札幌市はもちろん2026年冬季五輪招致を視野に入れている。


 ――五輪を契機にした都市開発や施設整備が支持される時代ではなくなってきた。札幌市はどんな理由で2度目の冬季五輪開催を目指すのだろう。


 札幌の五輪開催概要計画にも関わっているが、今のインバウンドの急増やアジアの中産階級の膨張を考えると、札幌は世界のスノーリゾート、観光都市として大きく発展する可能性が高い。そこに向けて世界で確固たる地位を築くため、一流のホテルやスポーツ施設を整備する必要がある。もし五輪を招致できれば、そのための絶好の機会になる。ただ立派な施設を整備するだけでは意味がない。そうした将来の街のグランドデザインを描いた上で五輪招致を考えるのが大切だ。


■身の丈にあったイベント


 ――スポーツツーリズムに熱心な自治体は、具体的にどんな取り組みをしているのか。


 さいたまスポーツコミッションによる13年から始まった自転車のツール・ド・フランスを冠した関連大会はよく知られている。5億~6億円の事業費で30億円近い経済効果を生む。さらに、さいたま新都心でのレースは世界125カ国に放映され、36億円のシティーセールス効果があると試算されている。


 沖縄は空手でアピールする。空手は中国の拳法と琉球古来の武術が出合って始まったとされ、沖縄県はその伝統空手の拠点となる空手道会館の建設を進めている。世界を転戦する世界空手連盟プレミアリーグの今季最終戦は11月に沖縄で開催する。空手愛好家は世界中に広がっており、発祥の地である沖縄への関心は高い。


 国際大会の招致など派手なことに目が向きがちだが、大事なのは人が動くことだ。各自治体がその規模、自然環境、体育館や陸上競技場など既存施設にあわせ、身の丈にあったイベントを呼べばいい。イベントでも実業団や学生チームの合宿でも対象はいくらでもある。中学生や小学生の大会でも、応援に家族が来てくれることなど考えれば、人の動きは大きなものになる。


 ――20年東京五輪・パラリンピックに向けて、自治体が外国チームの事前キャンプ地を目指す動きもある。


北京で開催中の世界陸上でも、ジャマイカは鳥取、ニュージーランドは佐賀、米国は千葉というように、各国のチームが日本で事前調整を行った。20年のほかにも19年の日本でのラグビー・ワールドカップ、18年平昌冬季五輪、22年北京冬季五輪など日本各地が事前キャンプ地としてにぎわうだろう。訪れた選手や関係者が、写真をとって交流サイト(SNS)などで紹介すれば、その国からのアクセスが増え、いろんな効果が生まれる。


 北海道のニセコのスキー場は外国人が多いことで知られるが、きっかけはオーストラリア人移住者の情報発信だった。奈良の熊野古道は最近、訪れる外国人が急増している。これもトレッキングという意味でスポーツツーリズムだ。今はSNSや口コミで情報が広がり、たくさんの外国人観光客がやってくる。外国チームのキャンプ誘致もそんな種まきにつながる。


■景色や食、温泉を生かす


 ――Jリーグ発足後、国内各地にサッカー、バスケットなど地域密着型のプロチームが次々と生まれた。こうしたチームも観光資源としても生かせるのか。


 日本のスポーツチームはブランド力が低いので簡単ではない。英国ならテニスのウィンブルドンでもゴルフの全英オープンでも、サッカーのプレミアリーグでも、プロスポーツを見るために海外から多数の観戦者が来るが、日本はプロ野球やJ1のチームでもそうはいかない。地域のチームでは地元以外から人を集めるのも大変だ。インバウンドを考えるなら、見るスポーツよりも、マラソンやスキーなど、するスポーツに風光明媚(めいび)な景色や食、温泉などをうまく組み合わせる方が効果的だろう。ラフティングやパラセーリングなど自然の地形を使用したスポーツもある。地方にとってこそ、工夫の余地がいくらでもあると思う。


 サッカーなら、Jリーグのチームは格安航空会社(LCC)で結ばれているアジアの都市と組むのもいいと思う。定期戦など開催すれば、互いにサポーターがLCCで行き交う可能性も開ける。もちろん、試合をすればいいというものではなく、人を動かすにはそれなりの仕掛けが必要だ。


 ――20年東京五輪・パラリンピックでの訪日外国人をどうやって日本各地に回すのかも課題となっている。


 五輪・パラリンピックの外国からの観戦客を首都圏から地方に回すのは難しいだろう。だが、今は中国から船で4700人が鳥取の港にやってくる時代だ。アジア各地からLCCで地方都市に直接、観光客が入ってくる。東京から回さなければと考える必要もないのでは。20年のビッグイベントは、日本が世界から人々を迎え入れる国となっていく上で、象徴的な意味があるのだと思う。


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原田宗彦(はらだ・むねひこ) 1954年生まれ。大阪府出身。専門はスポーツマーケティング。ペンシルベニア州立大博士。2005年から早大スポーツ科学学術院教授。プロスポーツ、チーム経営、スポーツイベントなどスポーツビジネス全般を研究し、日本スポーツマネジメント学会会長、日本スポーツツーリズム推進機構会長、Jリーグ理事などを務める。

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出典:日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO90978790W5A820C1000000/?df=2