訪日客が殺到!老舗商店街のスゴい「仕掛け」~数万円の高級包丁が飛ぶように売れるワケ

ここ1、2年の間で、大阪の街の景観は大きな変化を見せている。LCC(格安航空会社)の発着点となる関西国際空港の利用者が激増したこともあり、市内では大挙する訪日外国人客を見ない日はない。その恩恵を受け、経済面でも多大な影響を受けている。

 

訪日外国人というと、昨年度の流行語大賞となった、中国人観光客による「爆買い」の印象が強い方も多いかもしれない。しかし、大阪ではツアーでルートが決まっている中国本土からの団体旅行者よりも、個人旅行者が多い台湾、香港からの訪日客をターゲットにしたビジネスが加速している。

 

台湾で最大規模の旅行会社「スタートラベル」の日本販売担当の槨永勝氏によれば、訪日客の旅行スタイルは多様化しているという。「台湾では現在、空前の訪日ブーム。1度だけでなく、3回、4回と日本を訪れるケースが多い。旅行先も、日本人でも行かないようなコアでディープな場所にまで足を運びます。寺院はもちろん、安価な飲食店や、専門性が高い日本製品などが買える場所が特に人気が高い。百貨店や家電量販店よりも、その街ならではのモノづくり体験、飲食店、商店街に注目が集まっていますね」(槨氏)。

 

現在、大阪のホテル稼働率は90%を超えるなど全国でも有数の高水準をキープ。市内の予約は困難で、宿泊価格も平日でも1.3~1.5倍程度まで高騰している。堺市など郊外にも旅行客が流れており、ミナミやキタといった繁華街に限らず、資金力に乏しい小さな店や会社にまでビジネスチャンスが拡大。個性溢れる商店街も存在感を放ち始めている。今回は、そんな大阪の商店街の実態に迫っていきたい。

 

 

単価数万円の包丁が飛ぶように売れる!

 

ミナミの中心地からほど近く。わずか160m程度の小さな商店街が今、外国人観光客でごったがえしている。千日前道具屋筋商店街だ。同商店街は、大阪商工会議所によって、昨年度のインバウンド消費を盛り上げた「活力グランプリ」に選出された。

 

同商店街は、「くいだおれの街」大阪の料理人を支える調理具や厨房機器に特化した専門店街だ。東京・かっぱ橋道具街の大阪版といえば、すこしイメージがわくだろうか。

 

たとえば、商店街の中にある「堺一文字光秀」は、包丁の販売に特化した専門店。1本あたり2万~30万円と単価の高い商品を中心に販売しているが、これがよく売れているという。

 

同社の田中史朗氏は言う。「弊社の包丁は、決して安くはありません。ただ、アジアの方々を中心に、観光客だけで1日あたり20~30本が売れています。特に3年前からは、安定して売上げは伸び続けています。お客様の用途は、料理人から、個人の趣味まで様々ですね」

 

同じく商店街の古株である、漆器や和食器販売店である「大阪漆器」もインバウンド客でにぎわっている。創業113年の歴史を持つ同社では、現在、売り上げの2割以上は訪日客が占めているという。

 

 

インバウンド客で賑わう店の”仕掛け”

 

販売員の田中義隆さんはこう語る。

お店の取り扱い商品、内装や外装は、外国人客さんの休日などを予測し、数カ月単位でごっそり変えます。具体的には、中国の春節前は、中国本土からの方が増えるので、中国で人気のある『金』を使用した高単価な商品の数を増やす。ヨーロッパのお客様が多い月は、イタリアやフランスのカラーをモチーフにした商品を大量に仕入れるようにしています」

 

もともと、道具屋筋商店街全体がプロの卸屋集団。だから、仕入面などで小回りを効かした店舗づくりが可能なのだ。

 

商店街を訪れていた観光客に聞くと、こんな声が聞かれた。

 

「台湾では、ここまで質の高いプロフェッショナルな専門器具販売店が一箇所に集まる場所はない。外国語対応も可能で、安心して買い物できる」(台湾・37歳 陳漢陽さん)

 

「3度目の来日でコアな場所に来たかった。WIFIがあって、情報収集もできる。ストリートの裏には面白い飲食店も多く、魅力的な場所です」(韓国・21歳 カン・エンジンさん)

 

「香港の友人からの口コミで商店街の存在を知った。私は香港でレストランを経営しており、包丁を目的に来た。ただ、包丁の他にもたこ焼き機、鍋も買ってしまいました。笑」(香港・50歳・黄鉱凱さん)

 

ここまでにぎわう商店街になった背景には、同商店街振興組合の20年に及ぶ戦略的な取り組みがある。

 

同組合の千田忠司理事長が振り返る。

 

「私たちはもともと狭い市場を狙う専門商店街です。少子高齢化が進んでいく中、将来的に必ず国外からの消費が必要な時代が来ると考えていました。そこで20年以上前から、アジア全域に足を運び、『どうすれば外国人客を誘致できるか』ということを模索してきた。結果的にわかったのは、ミナミには食、文化と観光資源はあるということです。あとは、いかにインフラを整えるか。どう魅力を伝えるかが大切という結論に至りました」

 

千田氏がまず着手したのは、外国語版HPの開設。英語、韓国語、中国語対応からスタートし、東アジアのSNS対策として、商店街単独で無料WIFIを開放した。また、全国的にも先駆けて、免税商店街としての試みをスタート。該当店がひと目でわかる「免税アプリ」の開発、接客がよりスムーズになる「同時通訳アプリ」も導入した。現在は、同商店街の取り組みに注目する自治体や行政機関からの視察が定期的に入り、各都市との連携も加速させている。

 

 

商店街の活性化を後押しした、”新顔”の奮闘

 

こうした老舗や組合の奮闘に加え、商店街の“新顔”の活躍も商店街の飛躍に一役買っている。

たとえば食品サンプルの専門店・デザインポケット。同店は、同商店街に出店してまだ数年の新規参入組だが、2011年に「モノづくり体験」という新しい取り組みを開始。商店街に出店した後、各店と協力して、食品サンプルをはじめ、近隣の寿司店、ちょうちん職人、チョークアート体験などを開始。観光客に人気となり、商店街の新たな売りとしてすっかり定着した。

 

「2011年当時は、食品サンプル全体が衰退気味という状況。そんな中、いかに文化を途絶えさせないかを考えての出店でした。私たちは商店街の中では新顔ですが、みなさんに協力いただき少しずつ結果が現れてきました。旅行会社との連携もあり団体、個人客ともに順調に推移していますね」(デザインポケット広報担当者)。

 

外国語版HPの開設といった外部インフラ整備を地道に進める組合と、商店街の中で店を構える老舗、新規参入組それぞれの奮闘。それらが組み合わさって実現したのが、現在の商店街の繁栄なのだ。

 

地方のイチ商店街という枠に収まらない、インバウンド集客のモデルケースといってもいいのではないだろうか。

 

もちろん、始めからスムーズに運営が行われていたわけではない。近辺には、宗右衛門町商店街、道頓堀、戎橋商店街、心斎橋筋商店街といったメインストリートの存在がある。最初は、組合加盟の店舗から協力を仰ぐのも困難だったという。まずは、近隣の協力を得ることからスタートした。そんな状況で千田氏が重要視したのは、商店街という点ではなく、エリアという面での戦略だった。

 

 

「リトルトーキョー」ではない魅力を出せるか

 

「近辺には関西を代表するような巨大な商店街がある。そら、自分たちだけで大きな話しを持っていってもダメですよ。大阪人は儲かるとわかる話しには乗りますが、なかなか最初の一歩は踏み出さない。何枚もの企画書をまとめ、近隣する商店街、行政や旅行会社をまわり、ミナミのエリア全体での集客を考えました。そのことが、必ず自商店街の未来にも繋がると信じていましたので」

 

千田氏と同じように考える関係者も増え、2010年頃から官民一体でのなんば・心斎橋エリアでのインバウンド対策がスタート。ミナミにしかない独自の文化を全面にうたい、旅行客の集客につなげている。

 

ここ数年の大阪では、梅田駅周辺の大阪北ヤードの開発、「あべのハルカス」を中心とした阿倍野再開発など、市内には大型のショッピングセンターが続々と誕生している。ミナミでも、観光客向けに通常の価格の1.5倍程度の価格で商売をする店舗も出てきた。千田氏はそんな状況に警鐘を鳴らす。

 

「北も阿倍野も含めて最近の大阪は、『リトルトーキョー化』していると感じます。悪くいえば、没個性化してきている。ただ、それでは長い目で見ると大阪から観光客は離れていく。観光客向けの高単価な商売も淘汰されていくでしょう。今あるものを活かしながら、新しいものを提供する。そんな姿勢がいちばん大切だと思いますね。実際に私達も、ミナミでしかできない、自商店街でしかできない伝統的なモノづくり体験を提供するなど、企画面を強化しています」

 

取材の最後に、千日前道具屋筋商店街の千田氏はこんなことを力強く話してくれた。「今の訪日バブルは少なくてもあと5、6年は続くでしょう。そんな中、私たちのような資金力がない小さな商店街でもできることはある。立地や行政との兼ね合いという壁は、アイデアや行動で必ずカバーできます。今からは取り組み始めても、決して遅くはないと思います」

 

閑古鳥が鳴く商店街は全国に無数にある。でも、やり方を工夫すれば、活気のある商店街に蘇らせることもできる。千日前道具屋筋商店街のケースは、そのことを私たちに教えてくれるのではないだろうか。

 

出典:東洋経済オンライン

http://toyokeizai.net/articles/-/105945

 

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