インバウンドはここからが勝負 「訪日リピーター」をどうやって育てるか

爆買い終了で

訪日旅行のニーズに変化 

 

「爆買い」や「インバウンド」など、訪日外国人を巡る話題がメディアを賑わせています。

 

 日本政府観光局の調べによると、2015年の訪日外国人数の数は、対前年比47%増の1973万人となり、2020年までに2000万人という当初の目標を5年も前倒しで達成するなど、その勢いは止まることをしりません。

 

 ビザ要件の緩和や消費税免税制度の拡充、為替の円安、日本に乗り入れる格安航空会社の増便などの後押しもあり、2016年に入ってもその勢いは衰えず、6月5日時点ですでに1000万人を突破。過去最速のペースで推移しています。

 

 今後も右肩上がりで訪日客が増加するかどうかは、為替や景気の変動にも左右されるのため楽観することはできませんが、政府は2020年までに現在の2倍の4000万人、30年には3倍の6000万人に増やす目標を新たに定め、訪日客の増加を成長戦略の柱として確かなものにしたい考えです。

 

 もう少し、2015年の実績数字を見ていきましょう。

 

 訪日外国人が国内で消費した金額は、前年から71.5%も増加し、2015年には過去最高の3兆4771億円。1人あたりの支出に直すと17万6168円と16.5%増えた計算になります。

 

 その中心的役割を果たしてきたのが、訪日客の約40%を占める中国人観光客の「爆買い」でした。都市部にお住まいの方なら、一度は量販店でやドラッグストアなどで、家電や日用品を大量に購入する観光客の姿をご覧になったことがあるかもしれません。

 

 しかし、これまで訪日客の主流だった富裕層に加え、中間層や庶民層が来日するケースが増えていることもあり、以前と比較して旅行中に支出する金額は下落傾向にあります。また、台湾や香港のように、訪日客の約8割がリピーターという国も増えており、新しい観光体験を求める傾向も強まっています。

 

 よりリーズナブルで人と違ったユニークな旅行を楽しむことが、これからの訪日旅行のトレンドになりそうです。

 

 しかし、迎える側であるわれわれの対応は、彼らの変化にまだ追いついていないように思えます。

 

 

訪日客の不満NO.1は

使える無料公衆無線LANの少なさ

 

たとえば、日本人と訪日客の意識のズレを象徴しているものとして挙げられるのが、諸外国に比べ普及率が低い無料公衆無線LANがあります。

 

 訪日客へのアンケートで、日本での観光中にもっとも困ったことを尋ねると、実に訪日客の46.6%が、接続できる公衆無線LANが少ないことを挙げているのを皆さんはご存じでしょうか。

 

 スマートフォンやタブレット端末が世界でこれだけ普及しているにも関わらず、有料サービスを使わなければ情報収集すらままならない状態は、訪日客にも、国内の観光産業にも健全とはいえません。

 

 とくに訪日客の誘致に悩む地方にとってインフラ整備は重要なポイントなのですが、これまで大きな進展がないのが実情でした。

 

 こうした訪日客の顕在化した不満を解消しつつ、日本でのインバウンドビジネスを活性化するために生み出されたのが、KDDIグループのワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)が提供するサービス「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」です。

 

 本サービスで提供される同名のアプリ「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」は利用者を訪日外国人のみに限定する仕組みで、英語、簡体中国語、繁体中国語、韓国語、タイ語の5ヵ国語に対応。ガイドブックに載っているような観光に飽き足らず、より新しい体験を求めている訪日客に、Wi2が提供する全国最大20万カ所以上のWi-Fiスポットへの無料接続機能と、これら5ヵ国語による観光情報や街中の店舗からのおススメ情報が配信されることで、行動範囲を広げてもらいつつ、訪日外国人のための「情報ポータル」の役割を担わせることを期待したサービスです。

 

 一方、このサービスを利用する自治体や企業には、訪日客が提供に同意した自身の位置情報や属性情報などの匿名化されたデータに基づいて、「どの地域に」「どの国籍の外国人が」「何人いるのか」等など、細かな分析が施されたレポートが提供され、インバウンド施策の立案や改善に役立てるわけです。この位置情報の分析には筆者を含めた、アクセンチュアのアナリティクスチームが担当しています。

 

個人商店でも外国人観光客の

マーケティングが可能に

 

 昨年12月からはその簡易バージョンとして、個人でも手軽に訪日外国人の動きを可視化できる「インバウンド・レーダー(Inbound Radar)」や、今年の6月からは訪日外国人に向けて情報配信ができる「インバウンド・キャッチャー(Inbound Catcher)」というツールの提供もはじまりました。

 

 これらサービスを利用すれば、街中にある小さな個人営業のお店であっても、ピンポイントで訪日客を呼び込むことが可能になります。

 

 もし多くの訪日客に対し、団体旅行では味わうことができない特別な体験を提供することができれば、旅行の満足度を高め、リピーター客として再来日を果たしてくれるかもしれません。

 

 筆者は、こうした取り組みによって、日本人が提供したい情報を一方的に発信するのではなく、訪日客一人ひとり異なるニーズや、志向に合わせた情報を提供することを目指し、このプロジェクトに関わってきました。

 

 東京や大阪、京都のような定番の観光スポットだけでなく、路地裏の小さなお店や、地方の小さな街や村の隠された観光資産が掘り起こされれば、日本のインバウンドビジネスはさらに大きな成長を手にすることができるでしょう。

 

 これから日本の観光産業が「おもてなし2.0」ともいうべき、新しい段階に入るためには、事実やデータから、商品やサービスを発想することが重要なのです。

 

 しかし筆者の目には、日本企業の多くが、データをもとに決断することに躊躇しているように見えてなりません。なにが彼らを押し留めているのでしょうか。次回はそのことについて考えてみたいと思います。

 

データ参照元

「訪日外国人消費動向調査」

「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査」

 

出典:ダイヤモンドIT&ビジネス

http://diamond.jp/articles/-/97563