偽物が出るほど中国人に愛された「龍角散」人気の理由は汚れた空気だけではなかった

中国ではECであれ店頭であれ、商品が偽物ではないかという疑念を抱く消費者はいまだに少なくありません。こうした中、中国人にとって、日本商品は偽物がないというイメージがあり、ECや訪日旅行の滞在を利用して、食品や医薬品といった身体に直接作用するようなカテゴリの商品を買いたがる傾向にあります。

 

上述のような消費者の考え方も影響し、中国人に「神薬」と呼ばれる日本の医薬品でも特に人気のある商品が存在します。「龍角散」もその神薬の一つに名を連ねています。「龍角散」は同じ社名の日本企業が製造、販売するのど薬で、生薬の微粉末で、非常に人気があります。

 

一方で、人気のあまり、龍角散の中国人による不正購入や、中国国内で偽物が出回るなどの事件も起こりました。

 

今回は、龍角散の人気の理由をはじめ、龍角散にまつわるトラブルなどの事例をご紹介します。

 

 

爆買い後も、医薬品は人気!

2015年、ユーキャン新語・流行語大賞で「爆買い」が大賞を受賞したとおり、同年は訪日中国人観光客による日本製の家電製品や、理美容品、医薬品を大量購入する爆買いブームが起こりました。

とりわけ、大量購入する商品として、炊飯器や空気清浄機などの家電製品に人気が集中していました。

 

2015年当時に比べ現在は、中国人による一辺倒な大量買いのスタイルは少なくなったものの、依然として医薬品の人気は衰えていません。

 

 

人気の医薬品No1は、龍角散

訪日中国人観光客による爆買いの商品には、医薬品も含まれていました。

日本の医薬品が、中国や台湾で流行した背景には、訪日観光客によるSNSの口コミや、2015年に中国のポータルサイト「捜狐(ソウフ)」で紹介された「神薬(しんやく)12選」にあります。

 

神薬12選とは、日本に行ったら絶対に買うべき12種類の一般医薬品を指します。

 

こうした日本の医薬品が中国や台湾で支持される理由として、日本の医薬品は中国の医薬品と比べ品質がよく、飲みやすいことが挙げられます。龍角散は、水なしで服用できる点も評価され人気を博しています。

 

「龍角散」人気の背景は大気汚染物質のPM2.5

2015年の「爆買い」商品ラインナップに、空気洗浄機がトップランキング入りしていました。「PM2.5の大気汚染対策をしたい」と語る訪日中国人観光客の声もあります。実際に、2016年の春節期間のPM2.5濃度は重度レベルに値する200μm以上を観測し、当時の深刻さがうかがえます。

現在でも、PM2.5による大気汚染は改善したとは言い難い状況です。2019年春節期間(旧暦大晦日、旧暦元旦)の大気汚染状況について、中国人民共和国生態環境部によると、PM2.5の数値は338都市が平均値を上回る139μmを記録しました。うち119都市は重度レベルとされる150μmであることを公表しています。

依然として中国の大気汚染が深刻な状況である原因には、中国生産工場の空気洗浄設備の設備不足や、安価な中国産石炭の燃焼などが大量のPM2.5を誘発してしまうことがあります。

 

こうして大気汚染問題が解決されない中で、のどをケアする目的で、日本製の空気清浄機や龍角散のど薬が重宝されているようです。

 

 

人気のあまり不正購入や模造品

前述のとおり、中国や台湾において、神薬と呼ばれる日本の医薬品が人気を博しています。なかでも、龍角散は、中国の大気汚染環境の背景や、商品自体に、水なしで服用できるのど薬といった、中国にはない目新しい特長があり、非常に人気があります。

一方で、人気があるがゆえに中国人による不正購入や偽物の商品が中国国内の市場に出回るといった事件が勃発しました。ここでは、実際に起こったトラブルの案件をご紹介します。

転売目的の不正購入も

2016年「龍角散ダイレクト」を転売目的に不正購入した容疑で、中国人男性が逮捕されました。この男性は複数人と共謀し、都内のドラッグストアで他人の楽天ポイントを利用して龍角散ダイレクトを140点(約78,000円相当)不正購入し、さらに中国人に転売したそうです。

 

中国の神薬12選として非常に人気が高い龍角散ですが、2017年には、中国の輸入薬品管理許可を取得していない等の理由で、龍角散含む日本の医薬品9商品が、中国最大のECモールである淘宝(タオバオ)で販売禁止となりました。こうした事情から現在淘宝では龍角散の販売は行われていません。

 

一方で、中国大手ECモールの京東(JD.com)では、「龍角散ダイレクト」が72元(約1,000円)と日本よりもかなり割高な価格で販売されています。こうした中国市場での高額な出品も、中国人が「龍角散」は日本で買うべきと考える理由のひとつでしょう。

 

 

「龍の散」は、偽物だ!

最近では、中国国内で「龍角散ののどすっきり飴」の偽物が出回っています。

2019年3月頃、中国SNS「微博(ウェイボー)」のユーザー間で、龍角散のど飴の類似商品「龍の散」が話題になりました。

 

発売元の株式会社龍角散は、以前から模造品の存在を把握しており、龍角散の公式微博(ウェイボー)アカウントでは、オリジナル商品と偽物の名称やロゴ表記の違いを指摘して注意喚起するなど、対策を講じています。

 

 

[オリジナル品と模造品の違い]:「龍角散」公式微博(ウェイボー)より引用 また、龍角散は公式アカウントの投稿で、注意喚起すると同時に、このような偽物に対して消費者はどのように対策するべきかコメント欄に回答を設け、ベストアンサー5名に龍角散のど飴をプレゼントする企画を行いました。

 

ベストアンサーに選ばれた回答として、「オフィシャルサイトや、正式な旗艦店で購入すればいい。小さな利益のために、信用できない代理購入のルートを使うのは、得策ではない」とあり、ネガティブな話題にも積極的にPRへと繋げています。

 

[偽物対策の消費者キャンペーン]:「龍角散」公式微博(ウェイボー)より引用「爆買い」とは?中国人の日本商品への信頼・円安・ソーシャルバイヤー・初訪日

 

龍角散はこうして人気になった

龍角散は2017年に微博(ウェイボー)公式アカウントを開設し、SNSならではの特徴を活かしたフォロワーとコミュニケーションを図った商品PRの施策などを積極的に行っています。

こういったPR施策以外にも、龍角散は中国の大気汚染問題に照らし合わせたアピールポイントにも人気の理由があるといえます。

 

症状が出る前も、出た後も使える

龍角散が中国人に人気な理由として、さまざまな点がアピールポイントとなっていることが挙げられます。

 

龍角散は、水なしで服用できるのど薬です。不快感を感じたときや空気の悪さが気になるときなど、水を準備する手間なく服用できる便利さは中国人にとって魅力に映ります。

 

また公式サイトによると、龍角散はのどの不快感やの痛みや声がれ、せき、たんが出るなどの不調時だけでなく、こうした不調を防ぐための日常のケアとしての利用もできます。中国の大気汚染物質PM2.5は未だに深刻な問題にあります。中国政府は春節時期の爆竹規制をかけるなど対策を講じていますが、残念なことにPM2.5数値の大きな改善には繋がっていません。日常(大気汚染の環境)からのどを守る製品である点は中国人にとって非常に心強く思われたと考えられます。

 

 

中国人のニーズに合わせてインバウンド需要につながるPRを

龍角散は大気汚染のひどい都市で過ごす中国人の需要に合致した商品で、さらにはその需要にダイレクトに訴求するPR施策が功を奏しています。

昨今は一時期に比べて、爆買いと呼ばれる大量買いの傾向はあまり見られなくなったものの、依然として日本の高品質な医薬品を購入したいと考える訪日中国人観光客は多く存在します。インバウンド市場での中国人による売り上げ拡大には、中国人の日常的な需要の分析が役に立つでしょう。

 

 

出典:エキサイトニュース

https://www.excite.co.jp/news/article/Hounichi_ryukakusan/