職場に外国人がやって来た! さて、どうする?「五輪インバウンド」お迎え準備のツボとは......

経済のグローバル化が言われ始めたのと前後して、国際舞台で活躍するために必要なスキルの一つとして「カルチュラル・インテリジェンス」がもてはやされている。

 

   自らの文化と異なる文化を理解し、その違いを超えて円滑にコミュケーションができる能力のことだ。2020年の日本は、前年の入国管理法の改正を受けた外国人労者の増加、オリピックをとらえたインバウンドの伸びが見込まれ、再び注目が高まりそうだ。

 

<「職場に外国人がやってきたら読む本 ~カルチュラル・インテリジェンスのすすめ」(涌井美知子著) 近代セールス社>

 

「業務パフォーマンスの向上につながる」

   本書「職場に外国人がやってきたら読む本 ~カルチュラル・インテリジェンスのすすめ」は主に、企業で外国人の同僚や上司、部下と協働したり、外国人顧客の対応業務に就く人たちを対象として、副題にあるとおり「カルチュラル・インテリジェンスのすすめ」を説いたものだ。

 

   著者の涌井美知子さんは、大手企業の人事総務担当の経験を持つ臨床心理士で社会保険労務士。カウンセリング技術の向上、見直しを図るうちに「カルチュラル・インテリジェンス」を知り、文献を発掘するなどして研究を続けてきたという。

 

   そのオリジナルは、ロンドンビジネススクールのクリス・アーレイ教授が03年に発表した「Cultural Intelligence Quotient(カルチュラル・インテリジェンス・クオーシェント)」。「Intelligence Quotient(インテリジェンス・クオーシェント)」が「IQ」と略され「知能指数」と呼ばれるように、「CQ」は「文化指数」と言い替えられる。

 

   その内容は、著者のまとめによると「自分の文化の特徴を理解するとともに相手の文化の特徴を理解し、相手とのスムーズなコミュニケーションや相互理解を促し、問題を解決したり目標を達成する能力」。労働力不足を補うため、入管法を改正してまで外国人労働者を迎えなければならないのが日本の現状。来日した労働者に「郷に入れば郷に従え」とばかりに「日本流に合わせろ」というだけでは、せっかく確保した人材にも逃げられかねない。受け入れ側がCQを高めることでそうした事態を防ぎ、さらには「彼らの個性を抑圧することなく、個性や強みを活かしてもらうことは、業務パフォーマンスの向上につながる」ことになる。

 

 

入社1か月で退社したワケは......

   CQ(文化指数)が低いまま、あるいは認識がないまま、相手の文化的背景を知らぬまま、外国人と協働や取引、接客をすると、予想もしなかったことが起きる可能性があることが本書には示されている。

 

   著者がインド人男性を相手にカウンセリングしたときのこと。彼は何やら不満そうなのだが、そのことはともかく、あとになって「他にもっと権威のある先生」の紹介を求めてきたという。日本人の感覚からは失礼な要求であり、自ら別の人を探しそうなものだ。著者がのちのCQの研究で分かったところでは、インドではクライエント(来談者)がカウンセラーやセラピストが力不足と判断した場合、よりパワーのある人を要求するのは自然な成り行きなのだという。

 

   ある企業に入社した20代のベトナム人男性は、仕事上でミスをしてしまい、それがきっかけで、わずか1か月で辞めしまったという。彼の上司である40代マネージャーは、自主性を重んじるスタイルの指導を心がけており、ベトナム人男性のミスについては、声を荒げることもなく注意したものだった。

 

   ベトナムは周辺国による度重なる侵略と戦い続けてきた歴史を持ち、国民はそのため独立心が強くプライドが高い一面があるという。そのことはベトナム人に限ったことではなく、ベトナム人であっても人によるのだが、一般的に指導や叱責には敏感で、とくに他の人が見ている前でのことだと、プライドを傷つけてしまう可能性があるという。

 

   ほかに、集団主義的な考え方が強い中国人、勤務時間をめぐり日本人上司と折り合えないネパール人、「不測の事態に備える」ことが理解できないマレーシア人―などのほか、口座開設を希望する外国人の対応で戸惑う金融機関従業員のケースなどが紹介されている。

 

「ハイ・ロー」の違いを知る

   文化的背景の差によるコミュニケーションのすれ違いでしばしば、「ハイコンテクスト文化」と「ローコンテクスト文化」が取りざたされる。米文化人類学者が唱えた識別法だ。

 

   「ハイコンテクスト」は、さまざまなことについて共有性が高く言葉で発しなくてもお互いに察しあうことでなんとなく通じてしまう文化で、日本はこちらに属し、時間や経験の共有に基づいて話題が形成される傾向が強い。

 

   これに対し「ローコンテクスト」は、その逆で、話題などを共有の文脈に依存するのではなく、言語を通じてコミュニケーションをする。欧米はローコンテクスト文化圏で、論理的思考力や表現力が重視される。

 

   日本などアジアに多い「ハイコンテクスト」の国々の人たちは、いわゆる「場の空気を読む」ことができるが、「ローコンテクスト」の国の場合は、言葉でコミュニケーションをしようとするので、はっきりしていると感じることが多いのだ。この「ハイ・ロー」に対する無理解からの失敗も本書で紹介されている。

 

   東京オリンピック・パラリンピックが開かれる20年は、東京ばかりではなく、全国各地のホストタウンでも、短期ではあるが、多くの外国人が暮らすようになりグローバル化の範囲は拡大する。本書のタイトルは「~外国人がやってきたら読む本」だが、やってくる前にもコミュケーションの予習に使える一冊。

 

「職場に外国人がやってきたら読む本 ~カルチュラル・インテリジェンスのすすめ」
涌井美知子著
近代セールス社
税別1500円

 

出典:J-cast 会社ウォッチ

https://www.j-cast.com/kaisha/2020/01/17377327.html