コロナ禍でも開業続けるビジネスホテル 生き残りをかけた「食事」「大浴場」の進化

 3回目の緊急事態宣言下で再び苦しい経営を迫られているホテル業界。特に“出張族”やインバウンド需要が激減したビジネスホテルは、生き残りをかけてあの手この手の努力を続けている。ホテル評論家の瀧澤信秋氏が、コロナ禍にオープンした2つのビジネスホテルを取材した。

 

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 ビジネスホテルは業界で“宿泊特化型ホテル”といわれ、シングルルームを主体とした客室で構成されている。

 

 客室で構成というのは、朝食を食べるようなスペースは設けられてはいるものの、基本的には宿泊機能が施設のメイン要素になっていることを意味する。一方、ビジネスホテルと対比されるシティホテルは、客室以外にもダイニングレストランやバー、宴会場や結婚式場など多彩な施設を擁するのが特徴的だ。

 

 コロナ禍では人が集まることそのものが忌避されてきたため、シティホテルで宿泊以外の需要が激減したのは当然の成り行きだった。コロナ禍でクローズした多くのホテルも、古い施設という点に加え、まさにこうした宿泊以外の需要を見込んでいたホテルだった。

 

◆コロナ禍でも真価を発揮するビジホとは?

 景気が良いと収益の柱となる部門は、一転して不景気になれば足かせになるのは言わずもがな。その点、ビジネスホテルは収益性に加えて開業までに要する期間や省人力という点からリスクも少ないとされる。近年は供給過多も指摘されていたが、インバウンドの活況も追い風となり、大量に客室供給されてきた。

 

 ビジネスホテルそのものがコモディティ化する中、近年ライバルとの差別化合戦という様相も呈してきた。いまでは人気ホテルの設備やアイテムをそっくり導入する“後追いホテル”も数多く見られるようになった。

 

 ライバルにない強みを持ち続け、コストを投入して進化させる努力を惜しまなければ、それがブランド力となって表われる。従前から人気に甘んじることなくこうした努力を続けてきたビジネスホテルブランドは、コロナ禍でも真価を発揮している。

 

 

 

◆ビジホ温泉の先駆け「ドーミーイン」

 そうした意味で筆者がまず思い浮かべるのが「ドーミーイン」だ。長年取材を続けてきたビジネスホテルチェーンであり、全軒へチェックイン(2018年9月現在)した経験も持つ。

 

 ドーミーインと聞いて天然温泉大浴場をイメージする人は多いだろう。そもそも、機能性や利便性が追求され、付加価値的なサービスはシティホテルへ譲ってきたビジネスホテルだが、いまやビジネスホテルの大浴場は代表的な付加価値サービスとなっている。そしてドーミーインの大浴場は“ビジホ温泉”の先駆けであり、当初から大浴場をアイデンティティとしてきた。

 

ただの大浴場ではない、天然温泉も標準化しているのがドーミーインの特徴だ。ボーリングをして1000m、2000mと掘削する自家源泉はもちろんのこと、施設によっては温泉地から運んでくる運び湯(天然温泉との表記可)も。各店の大浴場、脱衣所はデザインや設備などチェーン全体で均一感がある。

 

 ドーミーインでは開発部門と事業部門で綿密な打ち合わせがなされるといい、たとえば、ビジネス客と観光客の割合など施設の傾向を鑑み、レイアウトプランが作成されることもあるという。

 

◆コロナ禍でもファンを増やす「サウナ部」

こうした大浴場の飽くなき追求はコロナ禍においても際立っていた。

 

 3月18日に開業した「天然温泉 豊穣の湯 ドーミーイン池袋」の大浴場が評判というので出向いてみた。ドーミーインの大浴場は露天風呂・サウナ・水風呂もセットなので、最近ブームになっているサウナファン(サウナー)にとっても注目すべきビジホブランドなのである。

 

 サウナにとって重要なのが水風呂だ。ただあるだけではダメで、水温を重視するのはサウナーにとって当然のこと。一般の方であれば18度の水風呂でも相当冷たく感じることだろうが、サウナーの中には18度くらいでは満足できず、16度、15度と“極めていく”猛者も。そんなサウナーの気持ちをドーミーインも理解しているようで、ドーミーイン池袋の水温計はなんと12~13度辺りを指していた。

 

 コロナ禍で進化した“サウナ水風呂の差別化戦略”ともとれるが、いま密かに話題になっている取り組みが「DOMINISTYLE サウナ部」だ。Facebookで公式ページが密かに開設され、ドーミーインサウナファンの“入部者”が増加している。「大人の部活」と称して自社の取り組んできた強みをさらに究める姿勢は、人との繋がりが希薄になっているいまだからこそ共感されるのだろう。

 

◆長期滞在者に飽きさせない「朝食」

 また、ドーミーインといえば朝食を評価する声が多い。ただし、評論家的に少し厳しい言い方をすれば、「それはチェーン全体として」という意味であり、店舗間のバラツキは若干気にかかる。人気というのは評価の数、すなわち口コミの分母が大きい知名度高きブランドに有利な部分もあるが、反面、多店舗化によるクオリティの均一化はブランドにとってある種のジレンマとも指摘できる。

 

 ただ、朝食の提供で不断の努力がみられるのは十分に評価できる点だ。コロナ禍で需要が激減する中、ホテルでの長期滞在プランの販売も多くみられるようになったが、ドーミーインも同様。たとえば「展望大浴場 あさひ湯 ドーミーイン・global cabin浅草」も長期滞在向けにリニューアル等がなされている。長期滞在といえば意外に問題になるのが朝食だ。

 

 フルブッフェスタイルなら選べる楽しみもあるが、ブッフェスタイルもコロナ禍でやりにくくなり、定食や一部ブッフェを採用する施設も目立った。

 

 取材日には、うなぎご飯を中心に、いくらやホタルイカの小鉢など海鮮が充実しており宿泊者に人気だった。バラエティに富んだ提供で、1泊の利用者ならまだしも長期滞在も前提とした飽きさせない朝食の数々。まさにコロナ禍が生んだビジネスホテルの新たな局面だ。

 

◆コロナ禍でも積極出店する広島発ビジホ

ビジネスホテルの朝食といえば、ビジホ通の間で密かに話題になっているのが、広島県福山市に本社を置くベッセルホテルズだ。コロナ禍においても各地へ積極的な出店を続けているホテルだが、朝食への先取的な取り組みが光る。

 

たとえば、2021年3月1日に開業した「レフ京都八条口 byベッセルホテルズ」では「包む-tutumu-」をコンセプトにした朝食を提供している。のり・錦糸卵・お揚げなど和のものをはじめ、サンチュ、トルティーヤなどシャリと共に海苔で巻く手巻き寿司だ。“包みスイーツ”では、生八つ橋やクレープに、わらびもちやフルーツなど包むオリジナルスイーツも人気だ。

 

 その他のメニューもかなり手が込んでいるが、支配人によると、「まだ慣れていないこともあり、準備に4時間要することもある」と話す。こちらの朝食は朝6時と早いスタートだが、逆算すると深夜2時から準備を開始していることになる。スタッフの労力も大変だろう。

 

 コロナ禍での開業というタイミングにおいて、一人でも多くのゲストニーズを捉えようと、特徴的なサービスの裏に壮絶な努力が隠されているのはこのホテルばかりではない。ちなみにドーミーイン同様、ベッセルホテルズでも大浴場・サウナ・水風呂を擁する店舗も多く、水風呂の温度は14度を基準にしているという。

 

◆生き残りのカギは「浮つかないビジョン」

ベッセルホテルズでは、大規模チェーンが席巻するビジネスホテル業界の中で、以前から明確にターゲットを絞ってきたブランドとして際立ってきた。インバウンド活況下では、黙っていても予約が入ってくる好況が常識であったが、いかに訪日外国人旅行者を取り込むか、常に策を練ってきた。

 

 ただ、外国人だけでなく、日本人旅行者・リピーターあってのホテルという考えの下、インバウンド率もできる限りコントロールしてきたという。“あなたと家族と街を愛する”をホテルのビジョンとして掲げているあたり、確かに地域密着を志す経営方針もうかがえる。

 

 朝食やビジョンばかりではない。特に新しいベッセルホテルの店舗はデザイン性の高さも特色だ。多くの人気ホテルを手がけるUDSのクリエイティブディレクター、中原典人氏とタッグを組んでホテルを開業させてきた。新規出店の度にコンセプトが洗練されていくのも、ホテル作りのトレンドと言えよう。

 

 今回、2つのホテルブランドを例示したが、コロナ禍の前から浮つくことなくビジョンとコンセプトを究め、底堅くリピーターに支持されてきたホテルブランドは、今後も生き残っていくだろう。

 

 

 

出典:NEWSポストセブン

https://www.news-postseven.com/archives/20210502_1655708.html?DETAIL