コロナ直撃で「稼働率83.5%減」の衝撃 ホテル業界の経営者に求められる対策とは?

14:53配信

新型コロナウイルスで自粛が求められていた、都道府県をまたいだ全国の移動が6月19日に解禁された。

 

 

8月からは、国内旅行の振興を促す政府主導の事業「Go To キャンペーン」が始まる予定だ。観光需要喚起策として実に補正予算から1.7兆円が計上されている。これはクーポンなどを通じて宿泊費や旅行先の飲食費や土産物代、現地の移動などに掛かった交通費などを助成するもので、その金額も、日帰りの場合は1人最大1万円、宿泊を伴う場合は、1人1泊あたり2万円が上限となっている。

 

 政府の施策を考えれば観光業界の展望は明るいようにも思える。だが、それは裏を返せば、新型コロナウイルスの影響によって、観光業界にそれほどテコ入れが必要なほど、深刻なダメージを与えているということでもある。

 

 コロナによって、ホテル業界にどれほどの影響が出ているのか。大手コンサルティングファームのPwCコンサルティングは、影響をまとめたレポート「COVID19:ホテル業界への影響」を6月にまとめた。

 

●「稼働率83.5%減」「客室単価前年比の半分以下」 アパホテルは?

 

 まず、コロナ禍の客室宿泊施設の稼働率はどうだったのか。レポートによると、2020年4月の月次稼働率は前年比83.5%の減少、平均客室単価は前年比47.5%減、全体の宿泊者数は77%の減少となった。

 

 この動きは1つのホテルで例えるならば、ホテルの部屋が埋まっている数が前年比の2割以下になり、さらに一部屋あたりの宿泊料も半額近くになってしまったということだ。一般的に宿泊施設は全体の稼働率が下がれば、需要喚起のため一室当たりの料金も下げざるを得なくなるため、経営者には「二重苦」がのしかかることになる。

 

 この客室単価の下落を逆手に捉えたとみられるのが国内大手ホテルチェーンのアパホテルだ。6月末までアパホテル公式サイト・アパアプリという「アパ直」限定で1人1泊2500円のプランを提供していた(アパホテル、素泊まり2500円の「新型コロナウイルスに負けるなキャンペーン」開始参照)。同社の広報担当者は筆者の取材に対し「他社には追随できない破格の金額で販売することで、他社を定宿としているお客さまが一度アパホテルにご宿泊いただき、定宿の鞍替えによるアパホテルのシェア拡大も目的としています」と回答した。

 

 その上で「事業として長期的な目で戦略を考えた場合、2500円からという金額では、短期的には利益はほぼないものの、長期的には必ずプラスに転じると考えています」と答えている。現在は「テレワーク応援 日帰りプラン」を午前8時から午後7時までで4500円から、「テレワーク応援 5日連続プラン」を4泊5日で1万5000円から展開中だ。「コロナ禍において、新たなホテルの活用方法を提案することで、これまでにない需要を取り込むことも目的としている」(広報担当者)とのことで、今後のマーケティング戦略にも生かしているとみられる。

 

●訪日外国人は前年比99.9%減

 

 ホテル業界にとって深刻なのが、近年国内の観光業界を賑わせていた訪日外国人旅行者の減少だ。その数は前年比99.9%減で、0に近いような数字だ。国内では新型コロナウイルスの流行は落ち着きを見せているものの、世界規模でみれば収束には程遠い。そのため、国内旅行者数の回復は望めても、海外旅行者に関してはまだまだ厳しいのが現状だ。

 

 この「インバウンド」とも呼ばれる訪日旅行者の需要は、日本の総需要の約2割を占めており、この2割に関しては当面も期待できないとみられる。日本の観光業を現状で「元通り」とするには、この2割の需要減を国内のみで補う必要がある。

 

●1室当たりの売上は大きく減少

 

 また、今夏に開催予定だった、東京オリンピックが1年延期された影響はどうなのだろうか。現在来年の東京五輪の開催方法について議論がされているものの、オリンピックによって海外から訪れる人の数の減少は必至とみられている。

 

 そのため、「オリンピック特需」そのものも減少することが考えられる。「RevPAR」と呼ばれる、販売可能な客室1室あたりの売上を表す指標は、今年7月と8月に予定通りオリンピックが開催されていた場合、20年8月は前年比27.9%の成長が見込まれていた一方、21年にオリンピックが延期されたことによって、21年8月はプラス27.2%と低い予測値となっている。

 

 また、1年延期したことで、20年7月はマイナス16.5%、8月はマイナス10.9%で、計マイナス27.4ポイントの予測値となった。20年に予定通りに開催され、21年にオリンピック特需がなくなった場合の予測値は、7月マイナス11.9%、8月マイナス16.7%で計28.6ポイントのマイナスとなった。

 

 一見すると、今年オリンピックが開催されていたほうが減少幅が大きいように見えるが、この数値はあくまで前年比であり、本来の21年の予測値は20年のオリンピックで大きく需要が伸びてからの下落を前提としている数値だ。そのため、RevPARの絶対値としては大きく下落するものとみられている。ただしそれでも、2019年のラグビーワールドカップと同程度のRevPAR上昇は見込まれている。

 

●日本の観光業界は今後どうなるのか

 

 新型コロナウイルスとそれに伴うインバウンド旅行者の急減、東京五輪の延期などによって、日本の観光業界は今後どうなるのか。レポートによると、近距離の国内旅行を中心に、需要が増加するものとみている。

 

 理由としては、コロナ禍で移動が「自粛」され、宿泊需要は減少したものの、旅行意欲そのものがなくなったわけではないこと。また、自粛疲れにより保養目的の意欲が高まっていたり、夏や年末年始に海外旅行を予定していたものの、国内旅行に切り替える人が現れたりする人もいることから、国内旅行の需要は今後増加するものとみている。

 

 ただし、旅行の移動手段としては、「三密」の回避のため、長時間乗りものに乗って移動することを忌避する層も現れると考えられる。そのためこのレポートでは、車で移動が可能な範囲内での近距離旅行が需要の中心になるのではないかと予測している。

 

 一方で、海外旅行や、国外からの旅行者の需要は、世界全体の収束時期の目処が立たないため、今後も低迷するものとみられている。

 

 さらにその後、人類が新型コロナウイルスに対するワクチンや、治療薬が確立されてからの、いわゆる「アフターコロナ期」の旅行需要はどうなるのか。PwCコンサルティングのパートナーでホテル業界に詳しい澤田竜次さんは見通しを語る。

 

 「アフターコロナ期の需要の見方・読みは、極めて難しいと感じております。その理由は、人々の意識が現在のウィズコロナ期においてどのように変化していくのかを知る必要があるからです。その意識の変化がアフターコロナ期における需要の質の変化につながるものと思います。

 

 まず現状ですが、政府による緊急事態宣言が明け、第二波の懸念が高まらない限り、国内需要は、4月、5月を底に、近距離レジャー需要や、全体の30%強を占めるビジネス需要を中心に少しずつ回復に向かうものと思います。一方で、国民の何%かは罹患リスクを恐れて、当面は旅行を控えること、また国内需要の約2割を占めるインバウンドが当面見込めないこと、また当然ながらオンライン会議の普及などにより、出張も一定程度抑えられることから、ウィズコロナ期には、ざっと見積もっても、19年比5~7割の需要でホテル業界は戦っていく必要があると考えられます。

 

 もちろん、政府の観光振興施策などで、一時的に需要が高まることは想定されますが、ホテル事業者としては、永続的なものではなく、一時的な特需と理解することが必要かと思います」

 

 その中でホテルが生き残っていくためには何が必要なのか。経営者が実施すべき対策とは何なのか。澤田さんは続ける。

 

 「まずは最低限、衛生面での安心・安全施策を確実に実行した上で、ゲストに対して見える化すること、またできれば第三者機関のチェックなど当該安全施策が確実に履行されていることを担保することが必要になります。これがブランドへの信頼につながります。また、より根本的には需要が限定され、質が変化する中で、新たなターゲットゲストに徹底的に向き合うことがより重要になってくるものと思います」

 

●レジャー需要が成長を遂げる可能性はある

 

 その上で今後のアフターコロナ期について、澤田さんは見解を述べる。

 

 「例えばワーケーションやステイケーションのゲストが何を求めているのか、また新たなホテルの形としての、非対面・非接触オペレーションをどこまで取り入れていくべきかなどを、アフターコロナ期も見据えて真剣に検討していくことが求められてくるでしょう。もちろんオンライン会議の進展により、ビジネス需要については、一定の影響が残ると考えられるものの、少なくともレジャー需要は完全に戻り、かつ成長を遂げる可能性は十分にあるかと思います」

 

 一方で、今回の新型コロナウイルス問題がいったんは終息したとしても、通常のインフルエンザのように、ワクチン・治療薬はあった場合でも、流行を繰り返す可能性もある。またグローバルな時代においては、今回のようなパンデミックは、比較的短い期間で繰り返される恐れも考えられる。澤田さんは指摘する。

 

 「既にニューノーマルな時代に入っていることを強く意識した上で、また変化する人々の意識に焦点を当てた上で、新たなホテルの価値を提供していく、また自社のビジネスモデルをリスク削減の観点から見直していくことにより、より危機耐性の強い事業体への変化が求められてくるものと思います」

 

 「出張族」とも呼ばれたビジネス需要の低迷と、新しい旅行スタイルの価値観。新型コロナウイルスによって、観光業界にもさらなる“変異”が求められていると言えそうだ。

 

出典:ニコニコニュース

https://news.nicovideo.jp/watch/nw7601579