新日本プロレス、メイ次期社長「海外、動画配信で勝負」

新日本プロレス、メイ次期社長「海外、動画配信で勝負」

 

 

プロレス団体の新日本プロレスリング(東京・品川)は6月1日付で、タカラトミー前社長のハロルド・メイ氏(54)を社長に迎える。「コト消費化が進む中、プロレスには大きな可能性がある」とメイ氏。訪日外国人の集客や海外展開に取り組む。日本企業の強みも弱みも熟知するプロ経営者が新たなリングに上がる。メイ氏に勝算を聞いた。

 

 

――なぜ社長を引き受けたのですか。

 

 「基準は自分がやりたい事業かどうかと、ポテンシャルがあるかどうかの2つでした。5、6年前からプロレスにハマっていました。モノからコトへの消費シフトが進む中で、大きな可能性も感じていました」

 

 ――なぜ可能性を感じたのですか。

 

 「タカラトミーでも『商品』『知名度』、買いやすさや通いやすさの『アクセシビリティ』の3点を重視しました。新日本プロレスの品質は世界最大のプロレス団体『WWE』を上回ります。技の習熟度は高く、ドラマ性もあり、選手はイケメンぞろい。強さへの憧れや筋肉フェチなど様々な性別や年齢層に刺さる多くの魅力を備えています。つまり、商品はある。一方、コト消費を喚起する知名度やアクセシビリティはまだ不十分です」

 

 「2018年7月期の売上高は過去最高の約46億円の見込みですが、WWEはその20倍です。20年前は2倍でしたが、放映権や動画配信の収入で差がつきました。放映権収入では180倍の差があります。このままシェア8割の日本でそこそこの事業を続けるか、海外で勝負して伸ばすかの分岐点にあるのです」

 

 ――どうやって海外市場を取り込みますか。

 

 「すでに年150回の興行で約40万人を動員しています。チケット収入は売上高の5割を占めますが、選手数や会場の都合を考えれば上積みには限界があります。やはり放映権や動画配信、広告などライセンスの収入が重要です。月額制の動画配信『新日本プロレスワールド』の会員は約10万人ですが、WWEの動画配信は世界で150万人の会員がいます」

 

 「まずは訪日外国人を『大使』にしたいと考えています。富士山、寿司(すし)、歌舞伎に並んで、日本を語るために不可欠な存在にしたい。試合を見ればその良さは必ず伝わり、帰国後は彼らがプロレスを広めてくれます」

 

 「海外興行にも挑戦します。今年3月の米ロサンゼルス興行では、4500枚のチケットが10分で売り切れました。7月にはサンフランシスコで1万人規模の興行を予定しています。また、広告などのスポンサーも探します。グローバルで通用させたい製品やブランドがぴったりです。将来は動画配信などで世界中の視聴者がスポンサーのロゴを目にします。今がお得ですよ(笑)」

 

 ――日本のプロレスは複雑なストーリーが魅力の一つですが、海外進出にあたってローカライズ(現地化)は必要ですか。

 

 「格闘技は万国共通のコンテンツです。現在の新日本プロレスの試合がそのまま海外でもそのまま受け入れられると考えています」

 

 ――目標は。

 

 「最低でも3年で売上高100億円です。相撲協会の経常収益が約120億円ですから国内市場だけでも達成できる水準ですし、これくらいできないと失敗です。長期目標はWWE超え。新日本プロレスの品質を考えれば十分可能です」

 

 「日本経済は世界のだいたい1割です。9割を取り込めないで、良い商品を眠らせているのが日本企業です。言葉や文化、ビジネススタイルの壁があるからです。契約社会の外国では、日本の義理人情は通用しません。対等に交渉できず、企業買収でも失敗が多いでしょう。私には言葉にも文化にも壁がありません。海外のやり方でビジネスができます。私がスポーツマーケティングのお手本になろうと思います」

 

                

 

 ハロルド・メイ氏はマーケティングで実績を持つ。日本コカ・コーラでは「コカ・コーラゼロ」で侍が登場するCMを制作。女性だけでなく、男性でも格好良く飲めるノンカロリー飲料にイメージを変えた。コンビニなどで常温で天然水を売る、おきて破りに挑戦。ボトルの水滴がかばんにぬれるのを嫌がったり、薬の服用で水を飲んだりする消費者には、冷たくない水が売れると見抜いた。

 

 脚光を浴びたのはタカラトミーの経営改革だ。2014年、創業家の富山幹太郎氏に引き抜かれて入社すると、100項目の改革テーマを策定。部門長の年齢引き下げや卸問屋を通さない新しい売り場の確保で既成概念を打ち壊した。

 

 真価は着せ替え人形「リカちゃん」のブランド再構築だ。メイ氏は50年にわたるリカちゃんの歴史に注目。世代をまたいで売れる商材ととらえ直し、ハイヒール姿でスリムな服を着こなす「大人向け」をヒットさせた。18年3月期の営業利益は131億円と8年ぶりに最高益を更新し、入社当時の約4倍に伸ばした。

 

 オランダ生まれだが少年時代を日本で過ごし、日本語が堪能。柔和な笑顔で相手の心をつかむのがうまい。一方、抵抗勢力を抑え、改革前進を優先させる剛腕経営者の顔も持つ。その剛腕で「プロレス」を世界のヒット商品に導けるか。新たな戦いのゴングが鳴る。

 

 

出典:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30561310V10C18A5000000/