【食とインバウンド】「7割経済」への対応

15:55配信

日本では都道府県をまたぐ自粛要請が解除され、各地に観光客が戻ってきました。マスクに消毒液、体温計にフェイスシールド、いつもより距離がある座席間隔。羽を伸ばしに観光に来たというのに、観光客はなんだか落ち着きません。一方でお迎えする事業者も手探り状態です。どこまで対応すればお客様に安心していただけるのか。どこまで対応すれば経営が成り立つのか。今月は最近気になる「7割経済」について考察します。

 

■7割経済への対応

 

7割経済という言葉が注目されています。新型コロナウイルス感染症(COVID19)の感染拡大の影響で景気が急減速し、当面はかつての7割程度の需要しか見込めないだろうという見解です。コロナ禍にある現時点でそれを検証する術はありませんが、少なくとも回復には相当時間がかかると感じている方は多いのではないでしょうか。

 

7割の需要に現在の生産体制と人的リソースで対応していては余剰が発生してしまいます。仮に今の10割の体制のままで7割経済に対応するのであれば、(1)販売単価を上げる(2)コストを下げる(3)稼働率を上げる――といった対策が必要になります。いわゆる生産性の向上です。

 

 飲食業界でのケースを考えてみましょう。(1)販売単価を上げる。これを躊躇(ちゅうちょ)される飲食店オーナーは少なくないでしょう。(2)コストを下げる。もともと薄利である中では限界があります。(3)稼働率を上げる。座席数を少なくせざるを得ない中で稼働率を上げるのは非常に難しいでしょう。店内ではなく店外のお客様にも提供することを考えてテイクアウトやデリバリーを活用すれば、生産性は向上させられますが、残り3割の需要を埋めるには十分ではないかもしれません。

 

いずれにせよ、飲食業界は試行錯誤しながら7割経済への対応を始めていますが、今はどれか一つではなく複数を組み合わせないと経営が成り立たないと思います。

 

 

 

■インバウンドは5割経済?

 

世界の旅行市場はどうなっているのでしょうか。世界的にはコロナの感染拡大が続いていますが、国境封鎖の解除を検討し始める国も出てきました。欧州連合(EU)は域内の移動制限を段階的に解除し始めています。トルコはすでに国境封鎖措置を解除、観光客の取り込みはもちろん季節労働者の受け入れも始めています。日本は現在111の国と地域からの入国を拒否していますが、ベトナム、タイ、豪州、ニュージーランドの4カ国を対象にPCR(ポリメラネーゼ連鎖反応)検査の実施などを条件に入国を許可する(人数制限あり)ことを検討しています。

 

<世界の旅行者数の推移と2020年の予測>

グラフは出典元にて参照

 

 

チャートは世界の旅行者の推移と2020年の予測を示しています。過去20年に渡り順調に拡大してきた世界の旅行市場ですが、今年は20年前の6億人程度に落ち込むと予測されています。しかしこの数値は最も楽観的なシナリオで、最悪のシナリオは3億2,000万人。実に対前年比マイナス78%にもなります。どう動くかはウイルスによる感染状況次第ですので、誰も予測できません。ただそうした中でも世界は観光客の争奪戦を始めていますので、インバウンド5割経済を獲得するためにも遅れをとらないようにしたいものです。

 

■ノーマルに戻るだけでは生き残れない

 

先述のように、日本政府も訪日客の受け入れ検討を始めています。インバウンド業界にとっては待望のお客様になるわけですが、果たしてどういった人たちなのでしょうか。ビジネス客というと、読者の多くは商談で来日される方をイメージされるかもしれません。確かにそうした商用目的で来日される方もいらっしゃると思いますが、私は富裕層が商用兼観光で多く来日されると考えています。

 

その理由は、日本は安全だと考えられているからです。先進国の中でもウイルス感染者数は少なく(PCR検査が徹底されていないからとも指摘されていますが)、致死率も圧倒的に低い。今であれば訪日者数も少ない上、日本人もあまり出歩いていない。「三密」(密閉空間、密集場所、密接場面)を避けられる上に今までに以上にプライバシーが守られるのであれば、訪日するのに最良の時だと考えるはずです。現にマレーシアはシンガポール、ブルネイ、豪州、ニュージーランド、韓国、そして日本を「6グリーンゾーンカントリーズ」として入国許可を検討し始めています。

 

世界の旅行市場が動き出した今、日本はこうした海外からの良いイメージを生かすことができます。これは質への転換を図れる好機です。日本のインバウンドはこれまで数を優先させ、2020年は4,000万人の訪日観光客数の誘致を目指していました。その達成が事実上不可能になった今こそ、量から質への転換を図れる機会が訪れているのです。それはまさに7割経済へのベストの対応策で、質の高いサービスを提供することで質の高いお客様をお迎えする。数優先だったノーマルでは生き残れないニューノーマル(新たな常態)へのマインドセットが求められています。

 

<プロフィール>

横山真也

フードダイバーシティ株式会社 共同創業者

フリーフロム株式会社 共同創業者

ヨコヤマ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役

1968年兵庫県生まれ。2010年日本で独立開業後、12年シンガポールで法人を設立。国内外の企業買収、再生、立ち上げ、撤退プロジェクトを運営管理するかたわら、14年ハラールメディアジャパン株式会社(現フードダイバーシティ株式会社)を共同創業。16年シンガポールマレー商工会議所から起業家賞を受賞(日本人初)、米トムソン・ロイター系メディアSalaam Gatewayから”日本ハラールのパイオニア”と称される。19年フリーフロム株式会社を共同創業し、サステナブルフードへの投資運営事業をスタート。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科修了(MBA)、同大学非常勤講師。

 

出典:NAA ASIA アジア経済ニュース

https://www.nna.jp/news/show/2060314