聖地・高野山で“テラワーク” 仕事がはかどる仕掛けとは

弘法大師・空海が開いた高野山(和歌山県高野町)、標高800メートルの神秘の聖地でテレワークをしてみれば-。

高野山の宿坊がテレワークを応援する宿泊プランを始めた。瞑想(めいそう)修行や写経体験、さらに明智光秀ら戦国武将が眠る奥之院をめぐるツアーにも参加が可能という。非日常を楽しみながら、仕事もはかどる、これぞ“テラワーク”。どういったものか、試してみるしかない。(山田淳史)

 

 

 

■Wi-Fi整備

 

 「テラワークに行ってくれへんかな」

 

 デスクから突然、指令があった。「テラワーク? テレワークの間違いじゃないんですか」と聞き返すと、高野山の宿坊で、テレワークに適した宿泊プランがあるという。普段は無駄話をしないデスクがダジャレを言うなんて珍しく、「行ってくれへんかな」は「行ってこい」の同義語だ。150行の原稿を書き上げるミッションをたずさえ、8月下旬、潜入取材を試みた。

 

画像:https://www.sankei.com/west/photos/200910/wst2009100012-p1.html

 

 

テレワークが快適にできるという「高野山恵光院(えこういん)」は奥之院の入り口「一の橋」近くに構える寺院。NHK大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」の主人公・明智光秀の菩提寺(ぼだいじ)としても知られる。

 

 「無料で写経や瞑想を体験できます」。午後2時にチェックインすると、マスク姿の役僧、越智安章さん(28)が迎えてくれ、写経用紙を渡された。

 

 高野山に数ある宿坊の中でも先駆的にインターネット対応の無線LAN(Wi-Fi)環境を整備したという。パソコンやプリンターなどを設置した「PCコーナー」もあり、確かにテレワーカーには心強い。

新型コロナウイルス感染拡大までは、インバウンド(訪日外国人)の利用が多く、こうした利用者のニーズに応えたという。「英語ができるスタッフも多いですよ」と近藤説秀副住職(37)。高野山ではグローバル化が進んでいる。

 

 

 

■墓地のナイトツアーも

 

 部屋は8畳の和室。仏画もかけられている。早速、持参したノートパソコンを開き、仕事を始める。窓の外には緑あふれる光景。静かな環境で集中する。日々締め切りに追われる支局の喧噪(けんそう)をしばし忘れる。

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すると突然、携帯電話が鳴った。ネタ元からだ。きな臭い疑惑の話に耳を傾けた。特ダネになればデスクも驚くかもしれない。いけない。取材もしていないのに邪念が生まれた。電話を切り、心を落ち着かせるために庭に出る。本格的な日本庭園で、秋の紅葉など季節ごとの景色も楽しめるとか。穏やかな気分を取り戻す。部屋に戻って「般若心経」の写経も始める。

 

 「阿字観(あじかん)」と呼ばれる瞑想の時間になり、道場に移動した。大日如来を示す「阿」の梵字をみつめながら瞑想する。越智さんから数息観(すそくかん)といって、自分の呼吸を数えることで心を落ち着かせる方法を教わる。「仏様に身も心も通じ、一体に感じる。瞑想は心を落ち着かせる手段です」。これはいい。働いていれば理不尽な目に合うことも多い。ぜひ試そうと思う。

 

夕食には精進料理をいただく。ごまどうふやさしみこんにゃく、煮物…。味のしみた高野豆腐は絶品だ。

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おなかも満たしたところで奥之院をめぐるナイトツアー(別途有料)に参加することに。部屋を出ようとした途端、デスクから仕事の問い合わせが…。ゲラのチェックか。少々慌てる。

 

 奥之院には20万基以上の墓所があるという。杉林の中には武田信玄や豊臣秀吉らの供養塔、さらにパナソニックやキリンなどの企業墓も並ぶ。ナイトツアーでは一の橋から墓石群の間を縫うように参道を進んで弘法大師御廟(ごびょう)を目指すが、夜はやはり不気味だ。

 

 明智光秀の墓所について案内役の越智さんが説明する。「これまで2度壊れたと伝わります。この先に墓所がある織田信長の怨念によるものといわれます。今の五輪塔(供養塔)の石も割れているんですよ」

 

 ツアー参加者が息をのむのが分かった。私も全身に鳥肌が立つ。背筋が凍るというのはこのことか。

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ツアーは片道約2キロ。高野山の歴史を学びながら、運動にもなる。大浴場で疲れをとり、部屋で写経を終わらせて就寝した。あっ原稿がまだできていない。

 

 

 

■朝は荘厳な護摩祈祷 

 

翌朝は、午前6時半からの勤行後、毘沙門(びしゃもん)堂で毎朝行われる護摩祈祷(ごまきとう)に参加した。僧侶が仏像前で、願い事が書かれた護摩木を次々火にくべると、小さな炎は1メートルを超える火柱になった。迫力ある修行に魅せられる人も多いといい、越智さんは「護摩祈祷のために宿泊されるお客さまも多い」と話す。

 

 朝食後にはPCコーナーを利用。備え付けのコーヒーメーカーもありがたい。なんとか原稿を書き上げた。何の原稿かって? もちろん、探偵記者の仕事、恵光院への潜入ルポだ。

 

 修行体験で心身ともに解放されると、不思議と次の仕事への意欲もわいてくる。私もすっかり気分転換して山を下りた。

 

 

 恵光院では、6月から「テレワーク応援プラン」を設けている。テレワーク目的で、関西や関東の都市圏から訪れる人も多いといい、近藤説秀副住職は「都会の喧噪を離れて、何かに没頭できる場所として使ってほしい」と話す。

 

 新型コロナウイルス感染拡大までは、体験型の旅行を楽しむ欧州からのインバウンド(訪日外国人)を中心に混雑していたが、今年に入って、予約のキャンセルが相次いだ。そんな中、恵光院ではプランを新設した。

 

 朝食付き。大人1人1室利用で9500円からとなっている。夕食は追加で頼むこともできる。「テレワーク目的で4連泊された方もいます」と近藤副住職。

 

 35ある客室は満室にせず、全体の3分の2程度に抑える運用をして、感染拡大防止策も徹底している。

 

 恵光院の「テレワーク応援」プランの料金は日によって異なり、ホームページや電話(0736・56・2514)などで確認が必要。

 

 

 

出典:産経ニュース

https://www.sankei.com/west/news/200910/wst2009100012-n1.html