2015年、中国人の訪日客はさらに増える~日中首脳の握手で変わり始めた景色~

2015年1月5日。中国・上海にある日本国総領事館は新しい年の業務開始日からてんてこ舞いの忙しさとなった。


 査証(ビザ)取得のために実に約7000人の中国人が総領事館に詰めかけたからだ。昨年の初日は4800人ほどだったので、約45%増である。


 昨年の時点で既に日本のビザを取得する中国人は大幅に増えており、総領事館の査証発給業務はパンク寸前だった。2014年に上海の日本国総領事館が発給したビザの数は約87万4000件と過去最高。2013年比では135.5%増と一気に2倍以上になった。


 年が明けてからの査証申請数は、過去最高だった昨年をさらに大きく上回る勢いだ。円安の継続と昨年の免税商品の範囲拡大に加え、1月6日には外務省が中国人へのビザ発給の要件緩和の開始を発表しているから、総領事館が昨年以上の忙しさになることはほぼ間違いないと言っていいだろう。


 筆者の周囲でも日本に旅行に行った、もしくはこれから行くという人が本当に多い。先日、休みの日に子どもと広場で遊んでいると、中国人の少年が「韓国人?日本人?」と話しかけてきた。「日本人」と答えると、「僕、先週沖縄に行ったばかりだよ」と教えてくれた。


外交担当部門の職員も日本へ旅行


 知り合いの30代の中国人女性は、昨年、自分の親を連れて日本を旅行した。すると夫の親も「ぜひ日本に行きたい」と言い出したので、今年は夫の両親とともに日本に行くという。上海市政府外事弁公室の複数の職員も今年の春節(旧正月)は日本に旅行に行くと話していた。


 地方政府の外交担当部門である外事弁公室の職員が日本人の報道関係者を前にして「春節は日本旅行。本当に楽しみ」と大手を振って言えるようになったという意味でも、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の場で日中首脳が握手したことの意味は大きかったのだろう。米系旅行情報サイト、「トラベルズー」の調査では、中国人の行きたい旅行先として日本が2年連続で首位になった。


中国から日本への投資も増えている。中国本土と香港で不動産業を営む中国企業の会長は「日本の不動産を買いたいと思っている」と言い切った。なぜ日本で不動産を買いたいのかと訪ねると、こう答えた。


「日本に不動産を持つことはステータス」


 「日本に不動産を持っていることは成功のステータスになる。ロンドンやニューヨークももちろんいいが、日本であれば自分の住居やオフィスとして使って、頻繁に行き来することもできるだろう」


 さらに、中国国内の不動産市況も影響しているという。


 「中国の大都市部については、コストが上がりすぎてしまい、今は手を出す気にならない。一方、地方都市の経済は先行きが読み切れないところがある」


 中国から日本へのビジネスが急激に盛り上がりを見せる一方、日本企業の中国ビジネスは安倍首相・習国家主席の握手以降もあまり温まっていないように思える。尖閣諸島国有化後の反日デモで工場や店舗を破壊されたり、その後の厳しい事業環境にさらされたりしたのだから中国事業に慎重になるのも当然と言える。


 だが、いくつかの企業の動きを見ると、厳しい時期にも地道に中国戦略を進めた企業にとっては、2015年が転換点となるかもしれない。


 例えばイオンだ。イオンは昨年12月19日、湖北省武漢市に内陸部で第1号となるSC(ショッピングセンター)、イオンモール武漢金銀潭を開業した。


同SCは武漢市の北部にある。中心部からは車で30分ほどの場所で、新しく建った高層住宅が立ち並んでいるものの、現在も開発中といった雰囲気が漂う。


それでも出足は好調だ。SC全体の売り上げは2014年12月19日から2015年1月4日までの17日間で計画を5割以上、上回っている。来館者数は約90万人。オープン時の特殊な環境を割り引いても、年間の来館者目標である1000万人は大きく超える勢いのスタートになったという。


もともとイオンは日本でも「タヌキやキツネが出るところ」に店を作り、モータリゼーションの流れに乗って事業を拡大させてきた。現在は中国のほか東南アジアでも、あえて都市中心部から少し離れた地域にSCを出す戦略を打ち出している。武漢への進出を決める際には、上海など大都市に出店する案も浮上したが、結局は内陸の武漢へ出ることを決めたという。


「タヌキが出るところ」への出店が勝利の方程式


 イオンは昨年、武漢市のほか江蘇省蘇州市でも郊外型のSCを出店。2015年と2016年も、それぞれ複数の大型SCをオープンさせる計画だ。店舗をマネジメントする人材など、店舗網を広げていくにあたっての課題もあるが、イオンが日本で得意としてきたビジネス拡大の方程式が軌道に乗り始めた印象だ。


中国内陸部では、コクヨもオフィス家具の事業で好スタートを切った。


 同社は昨年秋、価格を従来の半額程度に抑えたオフィス用の机や椅子を中国市場で発売した。同社のオフィス家具の販売はこれまで沿岸部の大都市が中心だった。新しい製品で従来は手薄だった内陸部を積極的に開拓していくという狙い通り、ここまで順調に受注を積み重ねている。


 イオンやコクヨの例は、いずれも準備に数年をかけたプロジェクトで、日中関係の改善が直接、新しいビジネスに結びついたわけではない。また中国経済の減速や、日本企業にも影響が及び始めた反腐敗運動など中国事業のリスクは尽きない。ただ信念と戦略を持って事業を続けてきた企業にとっては、ようやく果実を得られる兆しが出てきたのではないだろうか。



出典:日系ビジネス

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150109/275989/?P=1